ゴルフとは…「人生そのものです」。
中西直人はそう言い切った。
その上で2022年、群馬県「THE CLUB golf village(旧:THE RAYSUM)」で初開催されたJGTO主催トーナメント「For The Players By The Players」については、日本ゴルフ界の歴史の新しい始まりになる可能性があるとの考えも明らかにした。
JGTOと「THE CLUB golf village」は本トーナメントについて10年の長期契約を締結。この件について、中西は「(歴史の始まりになる)可能性を秘めていると考えたのは、やはり10年後までこのトーナメントを見てくださるという長期ビジョンです。そうした支援が見え、またそのビジョンまではっきりしている。10年後、どんな試合にしたいか、どういう試合をするのか、そんな着地点に向けてただ走る。正直、僕自身も10年先のことなので毎年、迷子になるのかもしれなしとは感じます。しかし、ビジョンさえ見誤ることがなければ、その目標に向かって行ける。ビジョンさえ崩れなければ不安なんて何もないはずです」と、男子ゴルフの流れを変える可能性を秘めた長期ビジョンを評価した。
コロナ禍もあり2020年に6大会とトーナメント数が激減した男子ゴルフではあるが、一方女子にスポットを当てると今季もトーナメント日程いっぱいに大会が組まれている。この男子ゴルフの人気低迷について中西自身はどう考えているか聞くと「男子ゴルフはシンプルに人気がない。人気がないということは面白くない…それ以外の何ものでもないんだと思います。僕たちプロ・ゴルファーが考える面白さ、パワーであり、パフォーマンスであり『どうだ面白いだろう』と考えている点と、ゴルフ・ファン、大会に足を運んでいただける観客、そしてスポンサー様が求める面白さがマッチしていない。だから、男子ゴルフに人気がないんだと思います。果たしてその差異は何だろうか…そこがわかれば、男子人気も回復すると思います」と人気回復の方策について頭を捻っているという。
男子ゴルフそのものについては「正直、本当に素晴らしいプレーヤーがそろっているし、男子プロのファン・サービスには熱もあります。実際、若いプレーヤーはファン・サービスにすごい力を入れています。でもファン・サービスだけがすべてではありません。そこには応援してもらえるまでのストーリー性がまだ見えないと思っています。男子ゴルフ界は、世代交代もあり最近、これだけ選手が入れ替わっている中で、あの選手もいる、この選手がいると台頭著しい。でも、中継で映し出される選手はこれまでと変わらない選手ばかり。新しい選手を知ってもらい応援してもらう方法が限られています。ですから、男子ゴルフ復活に必要なのは、話し合いだったり、コミュニケーションなんだと思います。男子ゴルフの魅力はもちろん純然と存在すると思いますが、そこがうまく伝わっていない。これだけパワーがあって、圧倒的であるという点が伝わっていない。僕が思うには、女子に人気があるので、女子の土俵で戦おうとしている。それだと女子のほうが華やかだし、素晴らしいし…となってしまう。男子には男子の土俵があり、そこで戦わないといけないと考えています。しかし、『俺の打球音を聞いてくれ』とか『ロング・アイアンがこれだけ高く上がってビタ止めできるショット見てくれ』と主張しても多くのファンには伝わっていません。まずはそれを見てもらえるきっかけ作る必要があると思います」と冷静に分析した。
中西には選手会副会長として、また「ファン・プロジェクト」担当としての重責もかかる。その点について中西は「ファン・プロジェクトについて『任せた』と言われているんですが、
僕にはわからない点も多いです。ファン・プロジェクトについては人によってそれぞれ解釈が異なる点もその要因です。正直、プロなのでプレーはできて当たり前。スーパープレーも当然魅せるべきです。そこで応援してくれるファンと選手の距離感を近づけて、選手の人間性をアピールすることができてこそ、本物のプロなんではないかと思っています。そこでファンサイトなどの環境を整備してもらい、JGTOの方に手伝って頂いたりし、そのファン・プロジェクトの仕組みを作って行くのも僕の役割かなと考えています」とファン作りの仕組みの重要性についても言及した。
中西自身、すでに独自の取り組みを進めている。たとえば中西がスポンサー契約を締結しているサトウ食品さんとタッグを組み22年には「THE TOURNAMENT for THE FUTURE~子どもたちへの贈り物~」を開催。ゴルフ好きやプロを目指す子どもたちとプロ・ゴルファーが組となって競う大会をスタート。今年も3月11日に第2回が開催されたばかり。ゴルフを広げて行くこうした新しい活動についても中西は「シンプルにゴルファーの人間性を見てもらえる取り組みも大事だと考えています。将来のゴルファーを育てるために、子どもたちとの取り組みも非常に重要です。また、男子ゴルフの魅力を伝えるという意味では、女子プロの華やかさをお借りし男女混合の団体戦も面白いと思います。女性プロの華やかさとともに男子プロのパワフルさ、そしてその人間性を見てもらう。こうした新しい取り組みを増やして行くためには、スポンサーさんや支援者の方々に『こういう魅力がある』とアピールすることも大切です。サトウ食品さんのように『よし、やろう』とおっしゃって頂けるようにする。ひとつのボールを男女ペアで打って行く…そんな大会があっても面白いんじゃないかと思います。常識にとらわれない発想も必要ですよね」と、旧態然としたスタイルの競技会にとらわれない新しい形式により、ゴルフを啓蒙していく行動も必要と説く。
中西自身、スポーツそのもの、つまりゴルフそのものがすでに共生社会を築いていく上での社会貢献なのではなかとも考えている。「僕らゴルファーは、そんな社会の橋渡し役になることができると思います」。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが著作『人間性の心理学』において「欲求の5段階説」を打ち出したのはあまりにも有名だ。マズローは後年、この「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つの上位に「自己超越」を唱えた。
スポーツには、ゴルフには生理的欲求、安全欲求を叶える力は備わっていない。しかしスポーツそのものに取り組む行為は、社会的欲求、承認欲求さらには自己実現欲求を満たす要素が多分に含まれている。さらには自己実現の向こうである自己超越による社会貢献や社会変革を可能にする力は、スポーツ、つまりゴルフにも備わっている。
だからこそ中西はゴルフとは「人生そのものです」と明言するに違いない。